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これはオリジナル小説です。

ネットの普及と共に著書の電子書籍化を版元から打診されるが、頑なに拒む老作家。
無料コンテンツや見放題、十把一絡げにどれでも100円など、著作物が客寄せの道具に使われる昨今。
ついに老作家は版元との出版契約を絶った。

第1章

第2章

第3章

第4章

第5章


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2030-01-01 00:30 | もくじ | COM(0) | TB(0) |


2014-12-16 18:27 | 未分類 | COM(0) | TB(0) |
約束の代々木駅前に現れた青年は、夏だと言うのに鋲の打たれた黒い皮ジャンパーと同じく黒い皮のパンツ姿で現れた。
金髪に染めた髪は胸元まで伸びており、目元はサングラスで隠れている。
肩から担いでいる荷物はエレキギターだろうか。

「竹本君かな?」

「はい。竹本タケルです。タケルって呼んでください」

金髪に皮ジャンパーの男はサングラスを外し愛嬌のある笑顔で男に挨拶した。
人懐っこそうなつぶらな瞳であった。

娘の香織が交際している7つ年下のミュージシャン竹本タケルと待ち合わせしたのは、彼が通うボイストレーニングの教室を紹介してもらう為であった。

男は娘と知り合った経緯や将来の事をどの程度考えて交際しているのかなど、聞いてみたい事は山ほどあったが言葉にはならなかった。
タケルは駅前の通りの先を指差し言った。

「じゃあ行ってみましょうか。すぐそこのビルですよ」

先に歩き始めたタケルの背中を追うように男も歩きだした。
黒革の背中に金髪が揺れている。タケルは振り返ると男に話しかけた。

「香織、あ、香織さんからお父さんをボイストレーニングの教室に紹介して欲しいって言われてビックリしましたよ」

「無理をお願いしてすまんね」

「別に平気っすよ。俺も毎週通ってるし。あ、このビルの2階です」

雑居ビルの中にあるそのスクールへ男は週に2回通い始めた。
男は歌手になる為に通い始めた訳ではないので、主に発声練習の指導を受けた。
トレーナーからは自宅で毎日腹筋をすることを命ぜられた。
机に向かい原稿ばかり書いてきた男には筋力が無かったのである。

最初は5回もすると腹筋が悲鳴をあげた。
ペットボトルを食わえて、中の空気を思い切り吸う訓練も毎日行った。
肺活量を増やすトレーニングである。3ヶ月を過ぎた頃から声量が上がり、滑舌も向上した。

そんな特訓の日々を送りながら、男は自分がこれまでに書いた小説を改めて読み返し、それを朗読用の原稿に書き換える作業に没頭した。

オカムラは会場の手配からチケットの販売。
告知ポスターの作成に、マスコミへのパブリシティ活動などに奔走した。

そして男は読み聞かせ師として全国をまわり自分の作品を直接、自分の声で伝える活動に切り替えたのであった。

自分の作品を頒布する行為から離脱した男は、もう自分の作品が古書店で売り買いされる事もなければ、コピーされたデジタルデータが何処かで出回ることを恐れる必要もない。
(完)

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2013-09-06 00:30 | 第5章 | COM(0) | TB(0) |
2人はタクシーでドクター中本氏の研究室へ向かった。
ドクター中本氏はそのムック本を受け取ると、付録のDVDディスクを取り出しパソコンのディスクドライブにセットした。

カチカチとマウスを操作してソフトのインストールを行いながら、最初に訪れた時にオカムラが読まされた実験サンプルの本の頁を破りスキャナーにかけた。

パソコンの液晶モニターにはグニャリと歪み判読が不可能な状態の頁が映し出された。

彼はその画面を一度閉じ、インストールの済んだソフトを起動して、そのソフトからスキャンした頁を開いた。
すると、先ほどまでグニャリと歪み判読が不可能な状態の頁がしっかりとした明朝体で映し出された。

「見事じゃ。あのアルゴリズムを解析するとは大したものだ」

ドクター中本氏は妙に関心した表情でつぶやいた。

「中本センセイ! どういう事なのですか? センセイの発明した特殊インクは時間が経過すると読めなくなるはずじゃなかったのではないのですか」

オカムラがドクター中本氏に詰め寄った。

ドクター中本氏の話によれば、15年にイギリスの機密情報部から依頼を受けて発明した特殊インクは空気と反応して変形するものであったが、そこにはある暗号化アルゴリズムが用いられていた。
その解読には当時大型コンピュータが必要なほど複雑な計算式であったが、時代の進歩と共に市販のパソコンでも解析出来るようになってしまったことが原因だろうと説明された。

実費で安く特殊インクを譲り受けていた男は何も言わなかった。
ドクター中本氏の研究室を出るとオカムラは男に謝った。

「北条センセイすみません。自分がドクター中本氏を紹介しなければ、こんな事にはならなかったのに……」

「いいんだよ。気にするな。完全なものだと信じてしまったわたしが悪いのだから……。それに君は言っていたじゃないか。プロテクトと何とかは破られる為にあるような物だと」

帰り道に件の古書店を覗くと、早くも男の出版した本が中古で売られていた。
頁を開くと文字がグニャリと歪みとても読めるものではなかった。
しかし、あの解読ソフトを使えば読めるようになってしまうのであろう。

しかも、解読する為にはスキャナーで読み込むのであるからコピーが簡単なデジタルデータになった状態である。

電子書籍化を頑なに拒んできた男にとっては大変な問題である。
第三者が勝手に販売する恐れさえある。

著作権の侵害で訴える事は可能だが、インターネットの広い世界でその相手を見つけるのは困難極まりないことである。

「オカムラ……。もう、わたしたちは本を出版して売ることは無意味かもしれないな」

「センセイ……」

「こんなに品ぞろえが豊富な古書店が繁華街のど真ん中に店を構える時代では、再販制度すら何の意味も持たない。それに、プロテクトを破ることを生きがいにしている輩が跳梁跋扈する世の中では何とも手の打ちようがないではないか」



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2013-09-05 00:30 | 第5章 | COM(0) | TB(0) |
翌朝、久美子と一夜を過ごした男はいつものように彼女を駅まで送り、帰りに駅前のコンビニへ立ち寄った。
もう男の本は書店に並ぶこともなければ、古書店で売られることもない。

下落合の事務所から発送する本の数が実販部数であり、中に入れてある読者ハガキの返送やメールで届く感想を生の声として受け止めていた。

映画化やドラマ化の話も舞い込んでいた。

相変わらず自分の小説が映像化されることには興味はないのであったが、販路の狭い直接販売では少しでも宣伝になればと思い積極的に対応した。

男は昼食の弁当を買おうと駅前のコンビニへ入ったが、何気に雑誌コーナーへ足を運んだ。
立ち読みをしている人の間から棚を覗き込む。

女性誌のコーナーにはっ久美子が編集長を務める雑誌も並んでいる。
その隣は週刊誌のコーナーで、更にその隣は男性ファンション誌やクルマの雑誌など男性向け趣味の雑誌が棚に面で刺さっている。
パソコンや携帯端末に関するムック本なども置かれていた。

その中の一冊に男の視線が止まった。

『あの人気作家の特殊インクで変形した文字を解読するソフト』

男は立ち読みしている若者の間から手を伸ばし、そのムック本を手に取った。
それはパソコンに関する雑誌の様で、ファイル共有ソフトだとか、市販DVDのコピー方法などが解説されているものであった。

中にはDVDも封入されており、表紙に謳われている『あの人気作家の特殊インクで変形した文字を解読するソフト』が付録で付いている模様である。

〈あの人気作家とは、もしかして自分の事か?〉

昼食の弁当を買うことなどすっかり忘れ、そのムック本をレジで買うと、その足でオカムラの居る下落合の事務所へ向かった。部屋に入るとオカムラは本の発送準備をしていた。

「オカムラ! 大変だぞ」

「どうしたのですかセンセイ。そんなに慌てて」

「こ、これを見てみろ」

男はコンビニのポリ袋からもどかしくムック本を取り出すとオカムラに渡した。それを受け取ったオカムラの表情も凍りついた。


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2013-09-04 00:30 | 第5章 | COM(0) | TB(0) |
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